スクウェア・エニックス時代に『ファイナルファンタジーXI』や『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』を手掛けてきた谷岡久美氏。大阪の開発室で個室が与えられ、最高の環境で音楽制作に取り組んでいたという。前編では、そんな谷岡氏がスクウェアに入社するきっかけから、初期に関わってきたタイトルのお話をメインにお届け!
谷岡久美(写真左)
1998年にスクウェア(現 スクウェア・エニックス)に入社し、『チョコボの不思議なダンジョ2』、『ファイナルファンタジーXI』、『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』などの楽曲を手掛ける。現在はフリーランスとして幅広く作曲活動中で、2015年に『Sky's The Limit』、2017年に『あの日の空と君のうた』と2枚のソロアルバムをリリース。また、音楽ユニットRiquisimoの活動など、アーティスト活動も活発に行っている。
■デビュー作『チョコボの不思議なダンジョン2』でいきなりハワイでの制作も経験
安藤武博(以下、安藤):谷岡さん、元スクエニ同士、今日はよろしくお願いします! 谷岡さんは最近もスクウェア・エニックスとお仕事されていますか?
谷岡久美氏(以下、谷岡):はい。近年は『ファイナルファンタジー レコードキーパー』とか『ファイナルファンタジーXI』のピアノアレンジなどのお仕事をさせていただいてますね。
安藤:今回の対談に際し、事前に谷岡さんの楽曲をたくさん聴かせていただきました。すばらしい楽曲ばかりですが、谷岡さんは最初からゲーム音楽を作る仕事を志していたのでしょうか?
谷岡:ゲーム音楽に限らず、音楽を作る仕事をしたいと思っていました。じつは、最初はラジオやドラマの音楽制作に関わりたいと思っていたんですよ。でも、どうすればその仕事に就けるのかさっぱりわからなくて。ラジオ局に直接電話したこともあったんですが「お答えできません」って言われてしまったり。
安藤:谷岡さんが就活されていた時期って、いわゆる「就職氷河期」なのでは?
谷岡:そうなんですよ。苦戦していました。そうこうしながら、たまたま本屋に行ったら『ゲーム業界就職読本』という本を見つけました。
安藤:偶然ですね! その本、わたしも持っていました(笑)。
谷岡:すごい偶然(笑)。興味を引かれて買って読んだところ、ゲーム制作会社なら就職活動ができそうだと感じまして、こちらの道に足を踏み入れました。弟がゲーマーだったこともあり、ゲームが身近な存在だったのが大きいですね。
安藤:最初に所属されたのはどこの会社ですか?
谷岡:最初は彩京ですね。ただ、入社から1年くらいして、社内の何人かと別会社に移籍することになったのですが、大雑把に言うとその会社が今度はそのままスクウェアに吸収される形になりまして。なんというか、棚ぼた的にスクウェアに入社することになったんですよ。
安藤:それはおもしろい経歴ですね。谷岡さんは神戸大学出身とのことですが、小さいころからピアノをたしなんでこられたんですよね?
谷岡:ピアノは幼稚園に入る前からやっていて、ヤマハの教室で作曲の勉強もさせてもらっていました。
安藤:そのころから、すでに作曲の勉強もされていたんですね!
谷岡:じつは、作曲の勉強自体は小学6年生で辞めてしまったんですけど(笑)。そこからはピアノ演奏一辺倒でした。で、神大の「発達科学部」の募集要項に「将来の音楽プロデューサーを!」みたいなことが書いてあって、これはおもしろそうだと思って、志望校をここに決めたんです。
安藤:学生時代などは、弟さんの影響でゲームは遊んでいたのでしょうか?
谷岡:私はもっぱら弟のプレイを後ろから見ているほうでした。ボス戦とか、四天王戦だけ弟の指示を受けながら私が戦う、みたいな遊び方をしたり(笑)。
安藤:兄弟のいるご家庭らしい遊び方ですね。ある意味、今どきの子どもたちの遊び方にも近いかもしれない。
谷岡:今どきですかね?
安藤:最近の子どもたちは、ゲームを自分で遊んだことはないけど、プレイ動画を観て学んでいる子も多いそうです。では、ピアノに夢中だった谷岡さんにとって、このゲームの音楽は素晴らしい、この楽曲は好きだと思えるものはありましたか?
谷岡:弟がよくプレイしていたものに限られますので、かなり限定的にはなってしまうのですが(笑)。彼は『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』などのRPGシリーズ、あとは『タクティクスオウガ』や『聖剣伝説』もよく遊んでいましたね。
正直、ゲームの内容はあまり覚えていませんでしたが、スクウェアに入社して『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』の楽曲を聴いているうちに、「あれ、この曲は植松さんが作ったんだ。この曲はすぎやまさんの曲だったんだ」って感じで、後から曲と作曲者が合致していきました。
安藤:ステキなめぐりあわせですね。いろいろなゲーム会社があるなか、弟さんの影響で学生時代に触れていたRPGをメインに開発している会社に入社するというのは。
谷岡:学生時代に『ファイナルファンタジーIV』の音楽をすごく好きになって『ファイナルファンタジーIV ケルティック・ムーン』というアルバムを買ったんですよ。オリジナルサントラだと思って買ったんですけど、これがいわゆるアレンジ盤で。はじめて聴いたときは驚きましたね。
ブックレットを見たら「こうやってハワイを満喫してやってまーす、黄昏時とか、なんていい毎日なんだ」といった内容のコメントが書いてありまして。「すごい! ゲームの作曲家ってすごいんだな!」とワクワクしながら読み進めていったところ、最後に「しくしく。そんなことありません」って書いてあって笑ってしまいました。
安藤:(笑)。当時、植松さんはハワイで仕事をされていたんですよね。「ハワイ在住で作曲活動」というと聞こえはいいのですが、当時ハワイで仕事をしてたスタッフに話を聞くと、実際は家とオフィスの往復しかしていないから、ハワイのことなんてまるで詳しくないと言われてた(笑)。そんな心の叫びなのかもしれませんね。
谷岡:じつは、この話には伏線がありまして。私が『チョコボの不思議なダンジョン2』の作曲をしているときに、1週間だけハワイで作業することになり、植松さんのオフィスまで連れて行ってもらったんですよ。でも、現地のスタッフはみんな日に焼けていなくて、お肌が真っ白で「えっ、なんで!?」って。室内は暗幕が下がってましたしね。ハワイってアメリカだから、17時以降は仕事をしちゃいけないってルールがあるのに、みんな朝まで仕事してるんですよ。これじゃあ日焼けなんてできないよねって納得しました。
■スクウェアは音楽を大事にしてくれる会社だった
安藤:谷岡さんがスクウェアに入られて最初に手がけられたのが『チョコボの不思議なダンジョン2』だったんですよね。この作品は谷岡さんのほかにも関戸剛さん、伊藤賢治さん、川上泰広さんらも参加されています。
谷岡:そうですね。スクウェアのゲームは1作品に作曲家1名ってケースが多いんですけど、たまたま植松さんが体調を崩されていたので、私はそこにポーンとヘルプで入った感じでした。植松さんから直々に電話がかかってきて、驚いちゃって。悩むヒマもなくその場で「やります!」って口にしてしまいました(笑)。
安藤:植松さん直々に口説かれたら断れませんよね。谷岡さんの作曲方法についてお聞きしたいのですが、DTMというか打ち込みは、ゲーム業界に入るまでは未経験だったのでしょうか?
谷岡:いえ、学生時代にSY85(※1)というシンセサイザーを使って打ち込みはしていました。SY85って、SY99やSY77の後に出た機種なんです。高校時代に親に「大学に受かったら買って!」とお願いし、実際に受かった後に買ってもらいました。
(※1)SY77、SY85、SY99……ヤマハがリリースしていたシンセサイザーのシリーズ。SY77がSYシリーズ最初の機種で、SY99はそのハイエンドモデル。SY85はシリーズの最終モデルとしてリリースされた。
安藤:わたしもリリース当時からSY85を使っていて、今も所持していますよ。バイトして購入資金を貯めたのですが、SY99は高くて手が出ないし、SY75はもう古い機種になっていたので、SY85を選んだんです。今振り返ると、すごくユニークなシンセサイザーですよね。
谷岡:なかなかクセがありますよね。じつは私、大学4年間のうち3年間は、ほぼシンセサイザーを触らなかったですよ。本当はそういう打ち込み系の音楽をやりたいと思っていたのに、なぜか全然触らないままになってしまって。でも友だちに小室哲哉のファンの子がいて、その子がSY99とヤマハのEOSを持っていたんです。
(※2)EOS(イオス)……ヤマハのシンセサイザーシリーズ。小室哲哉を起用して広告展開やシリーズのプロデュースをしていた。
安藤:小室ファンといえば、EOSが定番ですよね。小室自身は、自分のライブでは全然使わない(笑)。
谷岡:そうそう(笑)。その子はまったく曲を書かないし、五線譜すら読めないんですけど、楽曲のコピーをするのに使っていました。それで、就職活動をする際にシンセサイザーの知識が必要になったので、その子の家にSY85を持ち込んで泊まり込みの合宿状態で使い方を教えてもらいまして。その合宿中に打ち込んだ楽曲データをテープに録音して、デモテープを完成させたんです。
安藤:SY85での作曲というと、一列のドットを打ち込んでいくやつですよね?
谷岡:そうそうそう! あれでポツポツと打ち込んでいって。よくあれで楽曲を作ったもんだなあと思います(笑)。
安藤:就職して、音楽制作のお仕事を始められてからは何を使われていたんです?
谷岡:就職後は「レコンポーザー」だったかな。そのシーケンスソフトを使って覚えなさいって状態で。本格的に打ち込みを始めたのはそこからですね。曲を書いて打ち込みながら、一方で効果音の収録をしたりしていきました。
安藤:谷岡さんは譜面を書ける方ですから、やり方を覚えてしまえば余裕だったのではないでしょうか。
谷岡:ただ、私は相当な機械オンチなので、基本的なところしか使えなくて。曲を書くのは得意だけど、その曲をいかにキレイに鳴らすかってとこまでは手が回らなかったんですよ。なので、作った曲を実機に乗せる作業は別の方に担当してもらっていました。
それでスクウェア・エニックスを辞める直前まで、ほぼ作曲しかしていなかったんですが、フリーでやっていくって話をした時に同僚から「あなた、それじゃ絶対食っていけないよ」って言われたので、辞める直前に突貫で作曲以外の作業を全部教えてもらったんです(汗)。「最低限、これだけはできるようになれ」って教えてくれた方がいまして、そのおかげもあって、今はそれを武器に活動できています。
安藤:この対談の読者のなかにはコンポーザーを志している若者もいると思うのですが、彼らへのアドバイスとして、作曲以外にマニピュレートのスキルまで持っていたほうがよいと思いますか?
谷岡:絶対にできるほうがいいですね。やれることが広がりますから。どの方法を使えば作った曲をイメージどおりの音で鳴らせるかがわかりますし、バリエーションがグッと広がります。音楽に関する基礎知識はもちろんですが、ゲームサウンド制作の知識は、それこそ必要以上にあったほうがいいと思うんですよ。たとえば説得力のある音楽を書けたとしても、ゲーム音楽で言えば音楽的なクオリティを求められるより、大前提として「どれだけそのゲームに合うか」、「ゲームを盛り上げることができるのか」が重要になってくるんです。
安藤:音の鳴らし方といった引き出しの多さも大事になってきますね。
谷岡:ええ。だから基本知識はたたき込んでおいてほしいけど、その後は音楽ツールを使いこなすことを極めてほしいですね。ミックス作業においても、ゲームの場合は画面から鳴るので、CDと同じミックスじゃダメなんです。効果音の鳴るところを少し前に出さないといけないとか、コツがあるんですよ。そういうことを考えながら作ることで、よりゲームに沿ったサウンドを作っていけると思います。
安藤:そう考えると、ゲームサウンドって本当に独特ですね。谷岡さんがスクウェアに入社されたころはかなりイケイケな時代というか、同社がミリオンセラーを連発していた時期でしたよね。そのころのスクウェアってどんな会社だったのかをお聞きしたいです。わたしの印象としては、グラフィックやシステムはもちろん、サウンドにもかなりのカロリーを割く会社という印象があるのですが、実際はどうでしたか?
谷岡:安藤さんのおっしゃるとおり、ゲーム作りにおいて音楽をすごく大事にしてくれる会社でしたね。改めて後から思い返すとすごくいい環境でした。植松さんがいらっしゃったことが大きかったように思います。
安藤:それはスクウェア・エニックスも同様ではないでしょうか。社内に立派なレコ-ディングスタジオまでありますし、ほかにも他社にはない機材や環境がそろっていると思います。
谷岡:すごく恵まれていましたね。私個人の作業部屋がありましたし、入社時には私のために機材もすべてそろえてくださって。フリーになったあと、他社出身のサウンドクリエイターとお話をすると「個室があったの!?」と驚かれますからね。
ちなみに当時、スクウェア大阪はホテル阪急インターナショナルと同じビルの中にあったんですが、私の個室はそのフロアの東南角部屋。部屋はまっすぐ南向きで、すごく広かった。通天閣までパーンと見えて、「何、この重役席!?」ってみんなに言われるような環境で、サウンドの先輩方からも羨ましがられてました(笑)。
安藤:あのビルはいまだにキレイですからね。さて、作品の話に移りたいんですが、デビュー作の次は『ダイスDEチョコボ』を手がけられていますね。
谷岡:私はチョコボにご縁がありますね(笑)。最初の仕事はたまたまヘルプで入りましたが、結果的に認めていただけたから、次の『ダイスDEチョコボ』に関わることになったんだと思います。あの作品は開発の方々がすごく仲よくしてくださって、音楽に関してもあれをしたい、これをしたいっていうのを直で話せる環境がよかったですね。
安藤:『ダイスDEチョコボ』は元々あった曲の「チョコボのテーマ」を上手にいっぱいアレンジされていますよね。原曲を扱ってアレンジする楽しさと難しさについて、覚えていることはありますか?
谷岡:私はあまり原曲を崩したくないタイプなので、「チョコボのテーマ」なら聴いた瞬間にわかるようにしたい。でも「チョコボのテーマ」ってそれまでにもたくさんアレンジされていたので、それを踏まえつつどんな新しいものを出すかっていう難しさがありました。
ただ、『ダイスDEチョコボ』のゲーム性を踏まえると、とにかく楽しい雰囲気を作ることが大事なのではないかと考えまして。「楽しくて原曲は崩さない」を心がけ、元気なリズムを乗っけるくらいのアレンジしかしていないんですよね。むしろ、困ったのは『チョコボの不思議なダンジョン 時忘れの迷宮(以下、時忘れの迷宮)』のとき。久しぶりに「チョコボのテーマ」のアレンジをどうしよう……と四苦八苦しました。
安藤:『ダイスDEチョコボ』が1999年で『時忘れの迷宮』が2007年。かなりの期間が空きましたもんね。
谷岡:そうですね。『ダイスDEチョコボ』以来、さらに「チョコボのテーマ」のアレンジが相当数出ている状況で、それでも私はお馴染みの「テッテテテレレレ」のメロディは入れたかったんです。なので、『時忘れの迷宮』がどういうゲームなのかを開発スタッフにじっくり聞いて、それで少ししっとりした寂しい感じでテーマ曲を作りました。あれはゲームの雰囲気にもマッチしていて、奇跡的にうまくいったなと今でも思っています。
安藤:基本的なメロディは大事にしつつ、そこから雰囲気に合わせて広げていくことで生まれたサウンドですね。
谷岡:はい。メインメロディは全然違うものなんですけど、雰囲気として「チョコボのテーマ」のニュアンスをきちんと入れ込んでいるので、ユーザーさんにも受け入れてもらえたのかなと思います。
安藤:ゲームデザインやシステムのみならず、ゲームの雰囲気まで踏まえてサウンドを構築されていくというのは、とてもおもしろい作り方だと思います。
谷岡:ありがとうございます。私は担当作品がどういうゲームシステムで、どういうグラフィックで動くのか、RPGなら目的はなんなのかとか、ストーリーはどうなっているのかなどは、かなり気にするタイプなんです。今はフリーランスなので社内からすれば外部の人間ですし、なかなか全部を教えていただくことが出来ませんけど、それでも出せる情報は全部くださいとお願いし続けていますね。
■レスラー「安田忠夫」の話で盛り上がる2人!
安藤:時系列が戻りますが、『ダイスDEチョコボ』のあとは『オールスタープロレスリング』に関わられていますよね。曲を聴いたら谷岡さんの楽曲らしくないというか、異色でビックリしたんです。ギターがギュンギュン鳴っていて。
谷岡:『オールスタープロレスリング』は本当にお手伝い程度なんですけどね。音楽は福井健一郎さんがメインで担当されていたんですけど、少し手伝わせていただくことになって。それで、アントニオ猪木さんの入場曲「炎のファイター ~INOKI BOM-BA-YE~」を使うと原盤権の使用料がすごく高いらしく、使うと赤字になってしまうというので(汗)。こちらで作曲家さんが楽曲を書き起こし、私やスタッフの方たちで「イーノーキッ!」って声を入れたりしています。
安藤:そんなコストコントロールを?(笑)
谷岡:してましたね(笑)。アントニオ猪木さんだけは変えるわけにいかないから、そこの部分だけは使用権を払う感じでした。それとは別に、登場キャラの1人に使うBGMを作った程度ですね。
安藤:そのときは本物のプロレスの入場曲を聴いたりして研究されて作られたんでしょうか?
谷岡:そうですね。そもそも私はプロレスをほとんど見たことなかったので……。私が書いた曲は……確か酒ばっかり飲んでうだつが上がらないレスラーのテーマだったと記憶しています。
安藤:もしかして、安田忠夫さんでは?
谷岡:そうそうそう! 安田さんです。今思い出しました。キャラとして立っていたのはすごく記憶に残ってるんですよ。話を聞いたり調べたらあんまり勝てないレスラーなんだなと(笑)。当時は「プロレスって勝ち負けのシナリオがあるんじゃないの?」と思っていたので、安田さんが勝てないことが不思議に思っていました(笑)。
楽曲にかんしては、安田忠夫さんの実際のテーマ曲を聴き、それを参考にオリジナルで作った感じです。あと、作曲以外にも、ラウンドガールをされていた女性アイドルがボーカルを担当する曲があったんですが、その曲の「仮歌」を私が歌ったりもしましたね。
安藤:谷岡さんは仮歌までできちゃうんですか!
谷岡:歌いますよ! 仮歌以外にも、たとえば『パラサイト・イヴII』のクリーチャーの声なんかも私がやっていたりします。「ヴボエエエ~~……」みたいな声を(笑)。
安藤:それは楽しそうですね!(笑)
谷岡:声の収録、とても楽しかったですね。開発担当から「ピッコロが卵を出すように呻いて!」って言われて「そんな経験したことないからわかりませんって!」といったやり取りをしながら(笑)。あのころのゲームだと、モンスターの声は内部の人間で収録していたりしましたよ。今はそうではないかもですが。
安藤:谷岡さんがプロレスゲームの曲を作っていたのを知って驚きました。
谷岡:安藤さんはプロレスファンなんですか?
安藤:好きですね。『オールスタープロレスリング』も当時話題になりましたし。あのころはプロレスを観に行くとコーナーポストなどにスクウェアのロゴがあったのを見て、お金かけてるなあと思っていました(笑)。
谷岡:観戦に行くほどプロレス好きだったとは……。じゃあ、安田さんの試合もリアルで観ていたんですか?
安藤:もちろん観ていましたよ。振り返ると安田忠夫はあの当時だけクローズアップされたレスラーなので、懐かしいなと思って。プロレスってたまに一定期間ブレイクするレスラーが現れるんですよね。
谷岡:安田さんって、レスラーとしてはブレイクしていた方なのでしょうか? すみません、私はそこらへんに詳しくなくて……。
安藤:ブレイクしていましたよ。プロレスファンは、先ほど谷岡さんがおっしゃっていたようなダメなエピソードも含めて楽しむんですよね。
谷岡:私はプロレスって酒浸り状態でもできちゃうんだ、私生活も売りにしちゃうんだぐらいに思っていましたけど(笑)。なんだか安田さんのこと、今さらながら気になってきちゃいました。その後、どういう人生を歩まれてるんでしょうね。
安藤:まさか安田忠夫の話題でこんなに話が広がるとは(笑)。彼は元はお相撲さんですが、今はタレントのようなことをされているのかな……。気になりますよね。お。Youtuberになっている(笑)。では、サウンドの話に戻って、次の作品『ブルーウィングブリッツ』についてうかがいたいんですが、これはハードがワンダースワンですよね。21世紀になって、まさかの同時3音や4音でのサウンド制作……相当苦労されたのでは?
谷岡:苦労しましたねえ……。制限との戦いでしたよ。確か、大阪の開発室では『ブルーウィング』がワンダースワンの初開発タイトルだったのかな。だから開発機材に慣れるところから始まって、サウンドをどういう風に鳴らそうかって模索しながら……それこそプログラマーさんと一緒になって4和音でステレオっぽく鳴らしたい、けどスピーカーは1つしかない……みたいなやり取りをしつつ、四苦八苦。2音鳴らすときはこの音が消えるみたいな優先順位も考えたり。
安藤:制限の中でのサウンド制作あるあるですね(笑)。元々、ファミコンやスーパーファミコン時代にサウンドをやられていた方が、久々にレトロな音源で作曲するパターンは、本連載でも結構ありました。そういう時代が終わり、プレイステーション以降からコンポーザーになった方が、突然同時発音数が少ないハードでサウンド制作をするってのはあまり聞かないパターンですね。
谷岡:そうですよね。『ブルーウィングブリッツ』は苦労はしたんですけど、振り返るとじつは楽しかったです。制限があるほうが楽しいっていうか、サウンド制作がパズルみたいになってくるんですよね。はめ込んでいってはめ込んでいって「あれ、鳴らない……。なんで?」っていう繰り返しが、ちょっとクセになったといいますか。
安藤:作曲自体は楽しかったんですね。
谷岡:楽しかったですね。余計なことを考えなくていいのもよかったです。制限がない場合はどれだけサウンドを派手にしなきゃとか考えないといけませんから、逆に枷が増えますから。
安藤:今の時代、いくらでも豪華にできますから、そのぶんどこまでやればいいのか線引きが難しいですよね。
谷岡:そうなんですよ。現在のサウンド制作って、自分がどれだけ音楽的な引き出しや演出的な引き出しを持っているかが重要です。でも、出せる音の数が少ないと、複雑な演出とか考えなくていいので(笑)。限られたなかでどれだけおもしろいことが出来るかっていうのは楽しかったです。
しかも、あのゲームは効果音が確実に鳴らないと意味のないゲームだったからとくに面白かったですね。それにしても、今でも時々『ブルーウィングブリッツ』プレイしていました! って人にお会いするのですが、彼らがなぜ当時あのゲームを選んだのか不思議に思いますね。
安藤:ワンダースワンを持っていた人からすると、『ブルーウィングブリッツ』は目玉タイトルの1つだったと思いますよ。スクウェアからワンダースワンソフトはいくつかリリースされていたと思いますが、『ブルーウィングブリッツ』は印象に残っています。『フロントミッション』シリーズのスタッフが多く関わっていましたしね。
谷岡:プロデューサーが河津さんでしたが、半分くらいは『フロントミッション』シリーズの方が関わっていた気がしますね。
安藤:その流れを汲んだオリジナルタイトルがワンダースワンで出るんだと、ファンは思っていたでしょうね。
(後編に続く)
■ソロアルバム&参加ユニットRiquisimo(リキシモ)のアルバムが好評発売中!
谷岡さんのソロアルバム『あの日の空と君のうた』が好評発売中。作曲家活動20周年を記念して制作された全11曲収録のソロアルバムとなっている。ジャケットイラストは株式会社スクウェア・エニックス所属のキャラクターデザイナー板鼻利幸氏が手掛け、ゲストボーカルにはシンガーソングライター霜月はるかが参加している。
また、谷岡久美(ピアノ)と藤野由佳(アコーディオン)の2人によるユニット、Riquisimo(リキシモ)の1stフルアルバム『Charla』も好評発売中。2つの音同士がチャルラ(おしゃべり)するかのように絡み合う全10曲を収録。ゲストミュージシャンに壷井彰久(ヴァイオリン)が参加している。